第1章

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「ある、と――思いますよ。多分、……親が悪かったんでしょうね」 「あんたと……旦那がかい?」 房江は黙り込んだ。 図星だったのか。 ご立派な家から一人飛び抜けてこんな辺鄙なところに暮らす母を放置する。変な話だ。 「いや、息子が悪いよ!」 柏原は憤った。人様の息子なのに、無性に腹が立つ。 房江はやはり何も言わず、首を横に振っていた。 何故こうも達観できるのか、柏原には理解できなかった。 問いには答えが用意されている。房江に亡くなった夫のことを聞いた時、故人の遺影がいつまでも飾られない仏間には、写真代わりか、小綺麗な花が飾られていた。 あっさりと彼女は言った。 「夫には息子がいるんです」 「ああ、書道家の?」 「いえ、もうひとり。母親は私ではありません」 「……あんた、後妻さんなのかね」 「違います」 きっぱり言い切った彼女に迷いはなかった。 「そりゃ……」柏原はなんとも歯切れ悪く言葉を探す。 「あちらも母を亡くしています。息子にとっては弟になります。本来なら私共が引き取って迎え入れなければならないのですが」 「できないだろ」反射的に言葉が出た。 「無理だろ、自分の子供だってままならないこともあるのに、生さぬ仲の子ならなおさらだよ」 「そうですか?」 「そうだよ。旦那の不貞の証しじゃないか、犬猫を拾うのとはわけが違うんだ」 「あなたは……私のことを責めると思ってました」
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