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「書道家です」
きっぱり言い切った房江は胸を張る。
しょ、どうか。
食ってける仕事なのかね。
一拍間を開けて柏原は答えた。
「ま、庶民である私たちとは人種が違うってことだね」
「そんなことないですのに」と房江は言い募る。
「じゃ、聞くけど。旦那は何やってた人だい?」
「大学教授です」
だいがく、きょうじゅ、だって?
「お偉い博士様かね、こりゃ、世界が違うどころじゃないさね! ああ、これ以上聞きたくないよ、私でも知ってる、そうだね、元帝大とか? 六大学の……そうそう、白鳳とかの名を出されたひにゃあ……」
「そこです……」
「は?」
「夫は……白鳳の教授でした。父も……帝大の……教授で……」
柏原はあんぐり口を開けるまでだった。
とんだ奥様お嬢様だ!
が、来歴を知ったところでそれまでの付き合いに変わりはなかった。
房江がここで暮らしていたという言葉に偽りはなく、むしろ都心の山の手暮らしの奥様だったという話の方が嘘のように思えたからだ。
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