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顔を合わす機会が増えると立ち話も増える。
天気の話から他の話題をするようになり、お互いの家を行き来するまでそう長くはかからなかった。
女というものは、住む世界が違っても不思議とウマが合い、関係性を築ける人がいる。打ち解けるまでの時間はあってないようなものだ。
夫の一周忌もまだ迎えていないという房江は、自分の亭主のことはあまり話さなかったが、時折焚かれている線香が、そこんじょそこらの小間物屋や仏壇店で売っている安物とは違って香りが良いのだけはわかった。彼女はそこそこ良い暮らしを続けてこれた人だ。
「どうしてあんたひとりで越して来たんだい」
ある日、柏原は聞いた。
「前はどこにいたのさ、息子夫婦は?」
「青山にいます。夫の実家がそこですので」
「青山! 何だってそんなところからこんな辺鄙なところへ? まさか、息子夫婦が……いや、嫁に追い出されたのかい?」
「まあ、滅相もない!」
房江は心底驚いた風で反抗するように言う。
「息子は自営業ですし、嫁もあの子を助けてます。後のことは子供たちにまかせて、私が自分から出てきたんですよ。ここは元は私が住んでいたところですから。それとも何か問題でも?」
「問題っていう程のこっちゃないけどさ、あれだよ、皆、口さがない連中は大なり小なり同じようなこと言ってるよ、あたしの耳に届くぐらいにはさ。だって子供たち全然来やしないじゃないか」
「ふたりとも忙しくしてるんです。まだ若いですし、今が大切な時ですから」
「ふーん、その大切な忙しい息子さんは何してるんだい」
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