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“ヨウちゃんに謝らなきゃ”
それだけが、私を動かしていた。
「いやだ…ヨウちゃんと離れたくないよう。別れたくなんかないよう。」
息が苦しいのに、本音が声になって、いくつも零れた。
「ヨウちゃん…ヨウちゃん…。」
そうして私は、“ここ”で倒れた。
雨音の中、
私の視界では、見慣れたアパートが地面に突き刺さり、
雨は矢のように横からやってきて、右半身をひっきりなしに打っていた。
そんな光景が、“非常事態”だと頭に告げる。自分だけが、もう立っていないのだと。
ふと、それらとはちがう感覚が体を震わせる。
小さく腕を叩いては止まり、そしてまた…と繰り返している。
この時まで、私は携帯が鳴っていることに気付かなかった。
濡れてかじかんだ手で、上着のポケットを探る。
「…ああ…」
私を呼んでいたのは、ヨウちゃんだった。
画面いっぱいに、“ヨウちゃん”って履歴があった。
メールだったり、電話だったり…
ママもヨウちゃんも、この雨の中をずっと探しまわってくれていたんだってわかった。
私、泣けてきて泣けてきて、どうしようもなくて…ただ携帯を握り締めた。
ヨウちゃんが、探してくれてた…そのことが、嬉しくて嬉しくて。
「ヨウちゃん、大好きよ。」
どこにも繋がっていないそれを、耳にあてて呟いた。
「ねえ…大好きなの。」
それが、私の最後の“記憶”だったんだ。────
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