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“まさか…あんなことで?”
つい、あの女と同じ言葉を繰り返してしまった。
「あたしが悪いんじゃないわよね。」
相変わらず、女は花弁をむしっている。
「あたしは本当の気持ちを言っただけ。
彼を疑ったのも、追いかけ回したのも…あんなことになったのだって、全部あなた自身のせいよ。
それに…あなただって、あたしにずいぶん酷いことを言ったわ。」
辺りは、もう花弁だらけだ。
「だからあたし…
いいえ、“ワタシ”、見ているだけはやめたの。彼に気に入られるように頑張ることにしたのよ。」
その口調は、私のそれによく似ていた。
そして、気付いた。彼女は、“私”になろうとしているのだと。
服装、髪、しゃべり方に、細かい仕草まで。
「あなたになれば、ワタシも“ヨウちゃん”って呼べるのよね?」
女が嬉しそうに黒髪を揺らす。
「あなたはもう居ないんだもの、ワタシが代わりになったっていいわよね。
ワタシがヨウちゃんの恋人に。」
“あんた…間違ってる”
言ってあげたいけれど、それは無理ね。
だって私、死んじゃっているんだもの。
あなたにこの声が聞こえなくて残念だわ。とても大事なことがわからないなんてね。
────ヨウちゃんは、あなたなんかに絶対になびかない。────
今なら自信を持って言えるわ。
だってあの時、雨の中で彼の気持ちを知ったから。
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