第1章

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1  教室の戸を開けたら、そこには、もうすでに授業が始まっているクラスの様子があった──という夢を見て飛び起きた有紗。  夢だとわかった時には、本当に、ほんっとうに安堵したものだった。  彼女はいつも、やや早めに教室に入る。  理由は簡単で、昇降口が混雑している時間帯に行きたくないからだ。  朝は静かにゆっくり教室に向かいたい人なのだ。  それはともかく、教室の戸を開けたら──何、この視線は。  有紗は見慣れたクラスメート達から、なぜか不思議そうな視線を向けられている。  一瞬、教室を間違えたのかと思ったが、そんなわけはない。  どの顔も、昨日見た顔ばかりだ。  何となく気圧された感じになって中に入るのをためらっていると、矢島君というクラスでもかなり賑やかな男子が、気さくな調子で言った。 「えっと……もしかして、昨日先生から聞いた転校生?」 「……え?」  転校生とは、どういうことだ?  有紗の頭は一気に混乱した。  何度か意味のないまばたきを連続してから、矢島君に聞き返す。 「あの、矢島君……」 「惜しいっ。俺は田島君だ。ま、とにかく先生待ってるだろうから、職員室に行ったほうがいいよ。場所わかる?」 「わ、わかり……ます」 「先に教室に来ちゃったことは内緒にしといてやるよ」  いまだ混乱したまま、有紗は教室の戸を閉めてしまったのだった。  有紗は廊下をトボトボと歩きながら、つい先ほどの出来事を思い返していた。  ──もしかして、昨日先生から聞いた転校生?  ──惜しいっ。俺は田島君だ。  クラスのみんなで、悪戯でも仕掛けてきたのかと思った。  けれど、それなら教室の戸を閉めた時点で種明かしをしてもいいはずだ。  それとも、この遊びは担任のところへ行くまで続けられるのだろうか。  そう思って後ろを振り向いてみたが、後をつけている悪戯っ子の姿は見えない。  そして有紗は、あの時のクラスメートの表情を思い出す。  誰もが本気で有紗を知らないような顔をしていた。  時間が早かったから、クラス全員がいたわけではない。だいたい十数人くらいだったか。  一人くらい正直な人がいてもよさそうだが、誰もいなかった。  結局、何の解決も見出せないまま職員室に着いてしまった。 「あら、早いのね。担任の岩井です。よろしくね」  にっこりと微笑む三十半ば過ぎの女性担任の挨拶に、有紗は眩暈を起こしそうになった。
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