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「さっそく仲良しになってくれたのはいいけど、もう授業は始まってるのよ」
すみません、と三人は口をそろえて謝り、慌てて教科書とノートを開く。
周りからは、クスクスと笑い声が起こった。
後でね、と囁いた坂下さんに、有紗は小さく頷き返した。
板書を写しながら、有紗はまた今の状況について考えた。
岩井先生の担当教科は世界史。有紗が知っている通りだ。授業の進度も同じ。教科書に出てくる歴史上の人物の名も、覚えている通りだった。
どうしてクラスの人や先生の名前が一字違いだったり、自分が転校生なのか。
どんなに考えてもわからなかった。
(わかるわけないよね……教室の戸を開けたらこうなってたんだから。これは自然に答えが出るまで、流れに身を任せるべき?)
もはやそうするしかなさそうだが、では、いったいいつまでこの状況が続くのか。
授業終了のチャイムが鳴るまで、有紗は悶々と考え込んでいた。
元に戻るきっかけもないまま放課後になった。
帰るつもりでいた有紗を坂下さんが呼び止める。
「帰るの? クラブ活動には興味なし? よかったら案内するけど」
有紗は少し迷った後、ついていくことにした。
もしかしたら、名前以外にも違うところがあるかもしれない。
「じゃあ、最初は私が所属してる美術部からね。何なら入部してくれてもいいよ」
「始めからそのつもりだった?」
「そ、そんなことないよ……うん、ないない」
とても怪しい返事をする坂下さんだった。
美術室は西棟の三階にある。
坂下さんが戸を開けると、美術室特有の絵具のようなにおいがむわっと香った。
選択授業で美術を選んでいる有紗も、週に一度はここを訪れる。
坂下さんは準備室へと向かった。
そこには、美術部員の過去の作品や制作中の作品が保管されていた。
「普段は個人で作品を追及するんだけど、たまに合作もやるんだ。こういうの」
と、坂下さんが一番奥にある大きなキャンパスを指す。
それは、学校のすぐ近くにある小高い山から町を一望した景色だった。
「合作って、どういうふうにやったの?」
「この時は、町を担当する人と海の人、それから空の人に分かれて描いたって先輩が言ってたよ」
「坂下さんは、今何か描いてるの? それとも彫刻とかのほう?」
「絵を描いてるよ。まだ途中なんだけど……これ」
坂下さんは布を掛けられたキャンパスを指した。
「見てもいい?」
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