第1章

4/7
前へ
/7ページ
次へ
「さっそく仲良しになってくれたのはいいけど、もう授業は始まってるのよ」  すみません、と三人は口をそろえて謝り、慌てて教科書とノートを開く。  周りからは、クスクスと笑い声が起こった。  後でね、と囁いた坂下さんに、有紗は小さく頷き返した。  板書を写しながら、有紗はまた今の状況について考えた。  岩井先生の担当教科は世界史。有紗が知っている通りだ。授業の進度も同じ。教科書に出てくる歴史上の人物の名も、覚えている通りだった。  どうしてクラスの人や先生の名前が一字違いだったり、自分が転校生なのか。  どんなに考えてもわからなかった。 (わかるわけないよね……教室の戸を開けたらこうなってたんだから。これは自然に答えが出るまで、流れに身を任せるべき?)  もはやそうするしかなさそうだが、では、いったいいつまでこの状況が続くのか。  授業終了のチャイムが鳴るまで、有紗は悶々と考え込んでいた。  元に戻るきっかけもないまま放課後になった。  帰るつもりでいた有紗を坂下さんが呼び止める。 「帰るの? クラブ活動には興味なし? よかったら案内するけど」  有紗は少し迷った後、ついていくことにした。  もしかしたら、名前以外にも違うところがあるかもしれない。 「じゃあ、最初は私が所属してる美術部からね。何なら入部してくれてもいいよ」 「始めからそのつもりだった?」 「そ、そんなことないよ……うん、ないない」  とても怪しい返事をする坂下さんだった。  美術室は西棟の三階にある。  坂下さんが戸を開けると、美術室特有の絵具のようなにおいがむわっと香った。  選択授業で美術を選んでいる有紗も、週に一度はここを訪れる。  坂下さんは準備室へと向かった。  そこには、美術部員の過去の作品や制作中の作品が保管されていた。 「普段は個人で作品を追及するんだけど、たまに合作もやるんだ。こういうの」  と、坂下さんが一番奥にある大きなキャンパスを指す。  それは、学校のすぐ近くにある小高い山から町を一望した景色だった。 「合作って、どういうふうにやったの?」 「この時は、町を担当する人と海の人、それから空の人に分かれて描いたって先輩が言ってたよ」 「坂下さんは、今何か描いてるの? それとも彫刻とかのほう?」 「絵を描いてるよ。まだ途中なんだけど……これ」  坂下さんは布を掛けられたキャンパスを指した。 「見てもいい?」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加