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一晩経てば夢でしたなどということもなく……。
さらに、これは完全に気味が悪い部類に入るので無理矢理考えないようにしているのだが、ここ二週間で有紗は授業で受けた小テストですべて満点を取っていた。
これまでの彼女はだいたい中の上くらいだった。いつも応用問題で引っかかったり、細かいところを覚えていなかったりで点数を落としていたのだ。
けれど今は、不気味なほど問題が何を問いかけているのかわかるし、それを解くためにはどうすればいいのかがはっきりとわかるのだ。
また、体育でも不思議なほど体が軽かったし、思い描く理想のままに動いてくれた。
そのため、有紗はほんのわずかな間で『転校生』から『優等生』になってしまったのだった。
正直言って、自分が気持ち悪くて仕方がなかった。
同時に恐怖も覚えた。
そして思う──早く、この悪夢から目覚めなければと。
今日も有紗は早めの時間に登校した。
教室の戸を開ける時、いつも期待してしまう。
次に開ける時は元に戻っているのではないか、と。
……いつも裏切られるのだが。
「おっ、杉田さん待ってたよ!」
あれ以来、よく話すようになった田島君が有紗を呼んだ。
ここでは有紗は普段一緒にいる友人まで変わってしまった。
田島君もその一人だ。前はほとんど話すことがない人だった。
彼は数学の教科書をひらひらさせて言った。
「俺、今日当たりそうな気がするんだよ。答え教えて!」
「途中経過はいらないの? あの先生、途中式も書かせるよね」
「またそういう意地悪を……ほら、ガムやるからさ」
「そんな安っぽいお菓子で釣ろうなんて甘いんじゃない? どうせ甘いなら、●ディバくらい持ってきてほしいな」
「数学の問題でそれかよ。俺を破産させる気か。今月新作ソフト買ったからピンチなんだよ」
「私には関係ないね」
「冷たい! ほんっと冷たいよな! よしわかった。購買のメロンパンでどうだ?」
「決まりだね」
以前はすることもなかったこんなやり取りにも慣れた。
「田島だけずるいだろ。杉田さん、俺もメロンパンで一つ!」
「俺も!」
「私もわかんないとこあるんだ?。メロンパンと交換しよう」
「いや、そんなにメロンパンもらっても……田島君のだけでいいよ」
「やった! ありがとねっ」
竹野さん(前は竹田さんだった)が手を叩いて喜ぶ。
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