第1章

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 田島君が文句を言っているが誰も相手にしないのもいつものことだ。  始業前のちょっとした勉強会が始まった。  こんな自分、確かに気持ち悪いのだが、心のどこかで楽しいと感じている自分がいるのもわかっていた。  だから、強く言い聞かせるのだ。  これに慣れてはいけないと。  始業時間ぎりぎりに、何人かのクラスメートと一緒に坂下さんは教室に駆け込んできた。 「おはよう、杉田さん。寝坊しちゃったよ」  ふふっと笑う坂下さんの前髪が少しはねている。 「珍しいね。夜更かししちゃったの?」 「うん。おもしろい番組やっててね、つい」 「わかるよー。間に合ってよかったね」 「そうだけど、朝ごはん食べ損なっちゃった……」 「お菓子でよければあるよ」 「いいの? ありがとう!」  有紗は鞄からスナック菓子を取り出した。もともと休み時間に坂下さんと食べようと思って持ってきたものだ。  しかしすぐに岩井先生が来てしまったので、食べるのは授業前のわずかな時間になった。  そうして、有紗にとっては少し早いおやつタイムをとっている時、ふと坂下さん……いや、坂田さんとは前はどんな人だったかと思った。  あまり話したことのない人だったからよくわからないが、おとなしいほうだったように記憶している。  けれど、クラス委員をやっているだけあり、しっかりしていて、提出物を期日までに出せない人のために先生にかけ合っていたのを見たことがあった。  やさしいお姉さんといったところか。  そんな印象だった彼女が、テレビに夢中になって寝坊をするというのは新鮮だった。 「どうかした?」  有紗はいつの間にか坂下さんをじっと見つめていたようだ。  慌てて首を振る。 「ううん、何でもない……ことはないか。坂下さんの意外と抜けた一面を新鮮だなぁと……」 「滅多にしないからね、勘違いしないでね」 「ふふっ、わかってるよ」  最初の授業の先生が来たので、有紗は急いでお菓子を片づけた。  その日もすべての授業が終わると、有紗はすぐに帰り支度を始めた。 「今日は部活がお休みなの。一緒に帰らない?」  坂下さんからの誘いに有紗は一瞬不思議そうな顔をして、それから頷いた。  並んで帰り道を歩きながら、有紗は初めて坂下さんと方向が同じであることを知った。  途中までは同じ道なのだ。
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