ある日

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ある日

ちらほらと、空から真っ白い雪が降ってくる。貴方はマフラーに埋めていた顔を怠そうに上げる。首元にひんやりとした風が入り込んできたのか、ぶるっと身震いする貴方。私は目を細めて少しだけ口角を上げる。空を見上げていても、分かる。何度も繰り返しているから。 「雪、降ったね。積もるかなぁ」 「どうだろうな」 そんな曖昧な言葉しか返ってこないことも、知っている。 真っ黒に染まった視界の中、貴方は耳を澄ませているのでしょうね。聞こえているのは、私のため息に似た吐息。貴方の鞄の中で音を奏でる道具達。2人分の足音。そして、もう一つ。それは、先ほどからチッチッとリズミカルな音を出しているもの。貴方が目を開けて、そちらに視線を投げられるのが分かる。 私の左手首に巻かれている、腕時計。中心が黒く、周りは白い。そんなデザインの文字盤は、まるでこちら側を覗く目玉のよう。こんなデザイン、私は嫌い。可愛らしい時計をつけたいのが本音。だけど、これは先祖代々受け継がれている『特別な』時計。だから、これをいつもつけているのだ。 「そう言えば今日ね、あの人に告白したの。断られちゃったけど」 唐突に私の口から転がってきた言葉は、貴方の心臓を抉ったのでしょうね。分かっていた。貴方が私のことが好きなことぐらい。貴方がいつも苦しそうに笑うのは、私のせいだってことぐらい。 貴方はまた、曖昧な言葉を返そうと思考を巡らしている。でもね、無駄なの。だって、もう、決まっちゃったから。 「俺さ」 「だからね」 何度も繰り返し聞いてきた貴方の言葉を遮って、私は言う。貴方は驚いたように私を見る。無意識に口角が上がってしまう。なんで笑っているのか、貴方には分からないのでしょうね。私は、つい先ほど想い人に告白をして、断られた。だけど、私は泣かないで笑っている。貴方は不安そうにこちらを伺い、口を開く。そしてまた、驚いたように目を見開く。そりゃ驚くよね。言葉が出てこないのだから。 「もう、この『時間』は、いらないや」 今の私は、どんな顔なんだろう。少なくとも、いつもの無邪気を装った笑顔じゃないのでしょうね。貴方の愕然とした顔を見れば、それぐらい分かるわ。 ちくり、と胸が音を立てた。何の痛みか、私はその答えをもう知っている。何度も繰り返しているから。だけど、もう時間は止まらない。 (…またね) そう思ったが最後。 私の世界は闇に包まれた。
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