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わたしは物心ついた時から極度のあがり症で、親しい人の前以外ではうまくしゃべることができない人間だった。
幼稚園のころから、そのことをずっとバカにされて育ってきたし、それが原因で、これまで友達と呼べるような存在に出会ったことはなかった。
本当は、心の中では、たくさんのことを考えている。バカにされたら傷つくし、ムカつく相手には口汚く罵り返してやりたい。これでも本はよく読む方なので、きっと語彙は他の同年代の女子よりも豊富だろう。
でも、それがどうしてもできない。
だから、だれに何をされても、曖昧な表情を返すことしかできない。それがきっと、相手の嗜虐心を刺激するのだろう。
中学一年の一学期から二学期にかけて、クラスメイトからのわたしに対するいじめはもっとも盛り上がりを見せている時期だった。
毎朝、机の中にはよくわからないぐちゃくちゃのゴミが詰め込まれていたし、ひどい時には花瓶が机の上に置かれていた。
机の天板は、汚い言葉の落書きでいっぱい。上履きの中に画鋲が入ってることなんて日常で、履く前に必ず手を入れて異物が入ってないことを確認するのは習慣になっていた。
学校へなんて行きたくないーー
実はずっと、そう思っていた。
けれど、両親にそのことを相談したことはない。
両親は共働きでいつも忙しくしていたし、このことを二人に相談したら、唯一の逃げ場所である家の中にまで学校のイヤなことが浸食してきそうな気がした。
軽く言って、当時のわたしは人生に絶望していた。
これ以上生きていても何一ついいことなんてないような、そんな気持ち。
……けれど。
そんなわたしにも大きな転機が訪れた。
尾上ユミとの出会いが、その一つだった。
ユミの転入先は、偶然わたしと同じクラスだった。
ユミはとても正義感の強い子で、クラスの中でわたしがいじめられていることに気付くと、すぐにいじめの主犯格たちに対して語調も強く批判を始めた。
はじめのうちは、ユミのこともいじめの対象にしようという動きがクラスの中に広まった。けれど、それもすぐに下火になる。
なにしろ、ユミはとても頭がよかったのだ。
彼女と誰かが口論になると、必ずその誰かが痛い目を見ることになる。それも大抵、自らの語ったことで論理破綻を起こして、二の句が継げなくなる形で。
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