(2)事故

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 いつの間にか、わたしは目を思い切りつぶっていた。  だから、その時ユミがどんな表情をしていたのかわからない。  やがて、走って遠ざかっていくような足音が聞こえて、わたしはようやく瞼を開けた。 「ユ、ユミ……!」  彼女の姿は、わたしの視界の中ですでにとても小さくなっていた。 「ちがっ……ちがうの!」  思わず、そう叫んで、彼女の後ろ姿を追いかけていた。  わたしの鈍重な足では、もう間に合わない。ユミの足には追いつけない。  そんなこと、理屈ではわかっている。わかっているけど、止まるわけにはいかない。  ユミの前方には、大きな交差点の横断歩道があった。  うつむきながら走る彼女は、明らかに信号を見ていない。 「ユミっ……!」  彼女の姿が交差点に入る直前に、歩行者用の信号が赤へと切り替わる。 「ユミぃっ!」  わたしは叫んだ。これまでの人生で最大の声を出した。  ……けれど、その声はユミには届かなかった。  響きわたる急ブレーキの耳障りな音。  わたしの見ている目の前で、彼女の華奢な体が、ワンボックスのボンネットに弾かれて、宙を舞った。  ユミは空中で、信じられないような表情をしてワンボックスの方を見つめていた。それから、ゆっくりと絶望に染まったまなざしを、わたしの方へ向けた。 「ユミいぃぃっ……!」  泣き叫びながら駆け寄った時にはすでに、彼女の頭から流れ出る血で、アスファルトが黒く塗れ光っていた。
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