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これだけ祝われておいてなんだが、彼とは別れようと思っていた。彼のことは好きだ。けれども、彼を愛してはいなかった。彼と私の恋愛観はどことなくずれていて、もうそろそろ潮時だと思っていた。ただ、そう思っていたのは私だけで、彼はきっと結婚のことまで考えているだろう。付き合い始めたときのことを思い出す。付き合って二週間、二人の将来について語られたときは唖然とした。彼はいつも、どうしたら私が幸せな気持ちになるのか、どうしたら幸せになるのかを真剣に考えている。ただ、そんなありふれた彼の気持ちは空回りしていて、私の気に障るのだ。いつから私は、こんなに心の狭い女になったのだろう。
皆が酒に酔ってきたところで、私はそろりと店を抜けた。冷たい夜風が心地良い。パーティーの主役が会場を抜け出すなんて、自分でも苦笑いだ。
店の前にあるベンチに腰掛ける。こちらまで聞こえてくるほど、店内は騒がしい。
「ねぇ、君」
ふと声を掛けられて振り向くと、一人の青年が店の入り口に立っている。歳は、私と同じくらいに見えた。彼もこの店から出てきたらしく、私のすぐ隣に腰をおろす。
「はい……? こんばんは」
「こんばんは。どうしたんだい、主役が会場を出るなんて」
「ちょっと、夜風に当たりたくて。ご心配ありがとう。楽しんでる?」
「まぁ、そこそこね」
続く
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