恩返し

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簡単に女を中に入れたのは、下心が無かったわけでもない。 結局、その女はソファーで眠ってしまった。 マジか。見知らぬ女を泊めてしまった。まさか、そういう強盗じゃないだろうな? 俺はその夜、一睡も出来なかった。 結局、女は強盗などではなかった。 俺は一睡もしなかったので、つい朝方うとうとしてしまい、いい匂いに起こされた。 「夕べはありがとうございます。お礼に、朝ごはん作りました。」 テーブルの上には、久しぶりのまともな朝飯が並んでいた。 はっきり言って異常事態だ。夕べいきなり訪れた見知らぬ女を泊め、その女は朝飯を作っているのだ。 何かある。俺は、警戒心マックスだった。 それを察してか、彼女の方が先に 「いただきます。」と言い、朝飯を食べ始めた。 「何も盛ったりしてませんよ?」 俺の心を読んでか、そう言うと、俺のおかずをつまみ食いして見せて、にっこりと笑った。 「いただきます。」 腹が減った俺は、貪るように食べた。懐かしい。こんなまともな朝飯は実家以来だ。 その日から、俺と見知らぬ女の同居生活が始まった。 その女は、住居を追われ、彷徨っていたのだ。女性ホームレス。 何でも、派遣先を切られ、アパートも追い出されて途方にくれていたところに、あまりの空腹に貧血を起こした。 「しばらく、うちに居る?」 俺は下心満載だった。あわよくば、このままこの娘と。 彼女は鳩子と言った。鳩子?古めかしい名前だ。 鳩を助けた日におとずれた鳩子。案外、鳩の恩返しだったりして? 俺は馬鹿げたことを考えて一人笑った。 鳩子は毎日、夕飯を作って、俺の帰りを待った。 「おお、グラタンかあ。こっちは白子かな?」 彼女の作る料理は、何故か白くて甘めで優しい味の物が多かった。 だが、さすがに、ずっとグラタンと白子が続いたのには、辟易した。 そろそろ他の物が食べたい。 ある朝、玄関を出ると隣に住む婆さんが、俺にヒステリックに告げてきた。 「お宅から、夕方になると、すごく変なにおいがするのよ。夕飯時よ。いったい何を煮てらっしゃるの?」 不快げに、俺を睨みつけてきたのだ。 「さあ?心当たりがないのですが。」 そうだ。この婆さんがうるさいので、ゴミ箱はいつもきちんと蓋をしているはずだ。
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