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「嘘!あなた、彼女に言ってちょうだい。何を煮てらっしゃるのかわからないのだけど、臭くてしかたないんだから。」
そう言って、乱暴にドアを閉めた。
なんだよ、わかんねえよ。鳩子が夕飯で何を作ってるのかよくわからないけど、俺が食べた限りでは、そんなにおいもしないし、味は美味い。更年期障害だろ、ババア。
「鳩子、そろそろ、他のものが食べたいんだけど。折角作ってもらって言うのもなんだけど。」
俺は食卓に並ぶ、白い食べ物の胸やけがした。
「わかりました。」
次の日の夜、肉料理が食卓にならんだ。焼肉、から揚げ。俺は夢中になって食べた。
「美味い!鳩子は料理の天才だね!」
俺は大げさに鳩子を褒めた。
俺と鳩子は相変わらず、別々の部屋に寝ている。
折角若い男女がひとつ屋根の下に暮らしているというのに、これでは蛇の生殺しだ。
俺は、意を決して、鳩子の部屋に忍び込んだ。
部屋は真っ暗だった、こんもりと、鳩子のシルエットがうっすらと見えてきた。
「ねえ、鳩子、俺たちもうだいぶ一緒に暮らしてるジャン?そろそろ俺、鳩子の料理だけではなく、君も・・・。」
俺はそこまで言うと、どうしようもなく激情が止まらなくなり、彼女に抱きついた。
鳩子!ん?なんだこれ。丸い。固い?
それは鳩子ではなく、楕円形の大きなカプセルのようなものだった。
温かい。まるで、綿のよう。
暗さに目がなれてくると、それは鳩子ではなく、巨大な繭だとわかった。
そして、その繭の横には鳩子が座っていて、繭と繋がっていたのだ。
鳩子が口から紡ぐ糸が繭になる。
「わああああああ!」
俺は思わず、叫んで後ずさった。
「とうとう、見てしまったのですね。私は、あの時、助けていただいた者です。恩返しに、お料理と、あなたのお誕生日に夜なべしてマフラーを編もうとしていたのです。」
「は?何言ってんの?マジ意味わかんねえ。」
俺は声が震えていた。
こいつ、人じゃねえ。
すぐに照明をつけて、彼女を確認したのだ。
目は大きいどころか、飛び出していて、口からは糸が吐き出されていた。
「ま、まさか。あの時の、鳩?」
俺が助けたといえばそれくらいしか、心当たりがない。
でも、なんで?鳩が料理を作り、糸を吐く?
鳩子だったものは、大きく頭を横に振る。
「いいえ、私はあの時、助けていただいた、蚕です。」
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