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か・い・こ?
「そんなの、助けた覚えはねえよ・・・。」
「いいえ、あの鳩に食べられそうになっていた蚕です。あのままだと、私は食べられていました。」
いやいや、マジあり得ねえし。蚕の恩返しとか。
「糸から紡いで、マフラーを編もうと思っていたのですが、もう正体を見られたからには、お別れです。」
そう言うと、鳩子の体は真っ白に輝いて、巨大な蛾の姿になり、窓から空へ飛んで行った。
俺はそれを呆然と見守った。
あの蚕の鳩子が作っていた料理、全部、真っ白じゃなかったっけ?
臭いと行ってきた隣の住人。いったい俺に何を食わせてたんだ。
俺は胸に酸っぱい胃液が上がってきた。
俺は、恐る恐る、ベランダに置かれたゴミ箱を覗いた。
思ったとおりだった。煮詰められた、蚕の皮のようなものが捨てられていた。
俺を吐き気が襲う。もう一つのゴミ箱からそういえば異臭がする。
また、こんなにおいをさせてたら、隣のババアに何を言われるか。
俺は、今起きた、非現実を追い払おうと、現実に戻り、ゴミ箱の蓋を開けた。
「嘘・・・だろ・・・」
目が合った。
その目は、俺を恨めしげに見上げていた。
俺は涙目になった。
口を押さえて、トイレに行くと、食べたもの全てを吐しゃした。
体はガクガクと震えている。
あの女、何てものを、食わせやがった。
あれを上手く処分しなくてはならない。
「さて、次のニュースです。〇〇県〇〇市で、猟奇的な事件が起こりました。被害者は、太田豊子さん、68歳。殺害されたうえ、その肉を食べられてしまったのです。犯人は、隣に住む24歳の青年。犯行を否定していますが、その男の部屋からは、豊子さんの頭部と見られるもの、骨などがゴミ箱から発見されています。」
「悪臭で、もめてたみたいよ。私、彼女に言ったのよ。あまり文句言わないほうがいいよ、って。ほら、相手は若い男で物騒でしょ?何かあったら大変だから、警察に任せなさいって言ってた矢先に、こんなことになるなんて。」
「俺は、やってない!全部、全部、鳩子がやったことなんだ!信じてくれ!」
「鳩子なんて、どこにいるの?」
「今は人間じゃない。やつは蚕から蛾になったんだ。信じて!信じて!」
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