一人目、帰国

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人生最悪の三年間を終えて帰国し、とうとう再会する事になった妻を、小さな空港のロビーで探していた。 その矢先のことであった。空間全てが黒色で埋め尽くされた。 日も暮れており、窓からの明かりはない。何も見えない暗闇で周囲がざわめく。 庄司は反射的に、歩みを止めてかがみこんだ。 停電ぐらいで情けないが、職業病である。 彼は苦笑いして顔を上げた。 その瞬間、聴覚が狂いそうな激しさの破裂音が、連続して轟いた。 庄司はその音の正体を瞬時に理解した。 マシンガンの発砲音である。 あちこちで悲鳴が上がる。その間にも四方八方で銃声が響き、光が明滅する。 庄司は焦った。彼自身は銃弾など慣れっこであったが、このロビーには妻がいる。 火花による光の点滅を頼りに、彼は妻の姿を探そうとした。 しかし、危険な賭けであることがすぐに分かった。 人々は砲火から逃げようと、縦横無尽に駆け回っている。大勢から探し出すどころか、一人判別することさえ至難である。 その上、マシンガンを撃ちまくっている悪党の一人は、空港の出口付近にいる。覆面で、暗視ゴーグルらしきものを付けている。奇跡的に妻を見つけても、外へ出ようとすれば撃たれてしまう。事実、出口に近付いた数名が射殺されるのが見えた。 庄司は軽くかがんだ状態で固まったまま、銃声と明滅の中でなんとか自分を落ち着かせ、考える。 視認できた発砲者は八人。全部で十数人いるとして、照明が復活すれば、庄司の力なら五分あれば制圧できる。だが、妻を今以上に危険にさらすことになる。 「戦」に関してはプロ以上である庄司も、しかし人質救出部門においては素人同然であった。
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