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※
戦いの始まりは無音だった。
リラさんの耳がぴくりと動く。
「始まった」
「え?」
俺の耳には何も聞こえてこない。
「魔矢の音、人間には聞こえない音。でも私たち、聞こえる」
俺の頭上にいた水色スライムが激しく飛び跳ね出す。
ちょっとうざかったので、俺は頭上の水色スライムを手で捕まえた。
水色スライムは俺の手をすり抜けるようにして脱出し、今度は俺の体のあちこちを飛び跳ね出した。
まるでハエ取りでもするかのように、俺はイライラしながら、まとわりつく水色スライムを手で捕まえるのに必死だった。
(──ってかなんだよコイツ、なんでこんなに俺に懐いてんだ?)
「スライム懐く。良いこと。心に闇のある人間、スライム懐かない」
「そんなこと言われたら無下に払えなくなる」
結局、水色スライムは俺の頭上を定位置と決め込んだのか、最後は身を隠すようにしてそこに収まった。
「もういい。好きにしろよ」
俺は頭上の水色スライムをそのままにした。
リラさんが声を落として俺に言う。
「やはり奴ら反撃してこない。お前出てくるの、待ってる」
「このままここに隠れていたらダメなのか?」
「奴ら、そこまで待たない。お前が出てくる方法、きっと考えてる」
それを証明するかのようにどこかで悲鳴が聞こえてきた。
一人だけじゃない、何人もだ。
次いで荒々しく駆け回る足音、緊迫した叫び声、誰かを呼ぶ声、子供の泣き声、金物を打つ音。
雷が轟くような大きな音がした。
家の中が異様に蒸すような暑さに包まれる。
風に漂い、焼け焦げた臭いが鼻をつく。
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