被害確認

「正直、こちらで見ていただいて、その場でご夫婦が取り乱されると、こちらもどうしようもないんです。署のほうで暴れられると公務執行妨害という扱いになってしまいますし。

　なので‥‥こうして内々に連絡を差し上げているんです。心の準備と言いますか。先にご夫婦でちゃんと話し合って、覚悟の上で捜査にご協力願いたい、と」

「‥‥ちょっと、考えさせてくださいますか」

「もちろんです」

「あの一応訊いておきますが、協力しない、という選択肢もあるんでしょうか」

ん、と警察官のうなるような声がかすかに聞こえた。

「‥‥まあ、立場上、僕がすすめるわけにはいきませんが‥‥でも、奥さん、考えてみてください。そんなやつを罪に問わずに泳がせておいていいんですか？

　あなた方の住んでいる街ですよ。被害者がみんな口をつぐんで被害届けが出ない、被害状況の証言もとれないとなると、こちらは送検できません。拘置期限が過ぎれば、奴は自由の身になりますよ。本当にそれでいいんですか？」

私は黙ってしまった。