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今回の犯人は犯罪の性質上、他の被害者の秘密や弱みもあれこれ収集していました。
誰しも、人に知られたくないことや、周囲に秘密のまま解決したい事柄はあるものです。人間ですから、正か悪かで単純に裁けないこともあるでしょう。
なので‥‥僕ができるのは、ほんのちょっとだけ、同僚に目をつぶっていてもらって証拠品に触れるだけです。それでも、身の破滅を招く危ない橋をわたることにはなるんですが‥‥」
今まで電話口でひたすら、事務的かつ紳士的に話をすすめていた彼が、初めて職務から離れて胸襟を開いてくれた気がしていた。
若い彼が、自分が信じてきた職業倫理と、人間らしく血の通った情感とのあいだで板挟みになっているのが、痛いほど伝わってきた。
彼は見ず知らずの私のために、こんなに真剣に考え、心を痛めてくれていたのだと思うと胸があたたかくなり、同時に軽はずみなことをしてこんな状況を招いた自分を責めた。
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