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私は音を立てないように窓に近寄って、レースのカーテンを閉めた。
思わず声をひそめる。
「お願いします。こっそり処理する方法があるっておっしゃったじゃないですか。もし、どうしてもダメなら、あれしかないっておっしゃったじゃないですか」
私はなるべく弱々しい声をあげて、彼の良心に訴えた。
良心、とはいえ、私が今から頼もうとしていることは、明らかに彼の職権を使用した不正なのだ。それをなんとかおしきろうとしている私も相当ひどい女だ。
それでも背に腹はかえられない。
「お願いします。助けてください」
はあ、と電話の彼が、苦悩のにじむため息を吐いた。
ことの発端は昨夜の一本の電話からだった。
夕食を準備しおえて、あとは夫の帰りを待つだけだった。
私はエプロンを外して食器棚の脇のフックにかけ、リビングのこたつに入ってテレビをつけた。
政治家の汚職のニュースをみるともなしに見ながら、充電器にさしっぱなしだった携帯電話を引きよせ、チェックした。
案の定、夫からの連絡はない。
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