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……
「早く引き上げろ!」
クイントゥスのわきの下に乱暴に手が差し込まれ、体は一気に牢の間口を通過した。
「急に水に飛びこんで、どうしたんだ。息はあるのか」
水を吐き、ひきつるように息を吸い、咳き込んだ。
弱りきったクイントゥスは、硬い石の床に横たえられていた。
「クイントゥス。私だ、わかるか?」
彩色タイルが剥げ落ち、あばた顔になったモザイク壁画の勇者たちを覆い隠して、クイントゥスの視線に何者かが割って入った。
「誰だい?」
「カトだよ。お前は助かったのさ」
クイントゥスは混乱のきわまりにあった、ここにはユーリアがいたはずだと、しばらくは瞳を右へ左へ動かして彼女を探していた。
「助かった?」
「だんな様が身罷ったのだ。さきごろ、執政官の兵たちが、だんな様の身柄を押さえようとやってきたのだ。しかし、わずかな隙を見て、だんな様は短剣で胸を突いたのだ」
アッピウス家を支配した暴君は、永久に去ったのだ。
生身の人間に触れ、急速に正気を取り戻しつつあったクイントゥスの心に、疑問が生まれた。
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