三、

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――さしたる理由もなく主人の不興を買い、牢で死を待つばかりとなった若い奴隷の眼差しも、ランプの火に執着するそぶりを見せなかった。 そこでクイントゥスは、若い奴隷はいましばらくこの牢で過ごすものと確信して、わずかに胸をなでおろした。 息を引き取る間際、囚人たちは必ず、恍惚として再びランプの火を見つめるようになるからだ。 彼らが灯火の先に何を見るのか、クイントゥスには知る術も無い。 いずれにせよ、クイントゥスはその眼差しに触れると、激しい落胆と恐怖に苛まれる。 単に囚人の死を嘆いてのことではない。 牢が空になれば、またぞろ新たな囚人の投獄が約束される。 そうして、かつての同僚であり、部下でもある奴隷たちの悲惨な運命に立ち会うのは、他ならぬクイントゥス自身の役割なのである。
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