四、

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湯の入ったゴブレットを傾けようとしていたフルーギーの眉が、ピクリと動いた。 彼は樫材のテーブルに半身を乗り出すと、声を落として尋ねた。 「よう。まさかだが。今度穴倉に入ったのは、女か?」 「ああ」 「なんで女が放りこまれる?近頃は屋敷に女の奴隷はいなかったろう」 …… フルーギーのささやきを耳に挟みながら、クイントゥスの意識が昨晩へとさかのぼっていった。 昨晩、クイントゥスの前にユーリアという名の娼婦が引き連れられてきたのは、屋敷の庭先にある番小屋から、自室へ戻ろうとしていた最中であった。 奴隷たちに両腕を抱えられながら、ユーリアは足をばたつかせたり、奴隷の耳に噛み付こうと首を伸ばしたりして、散々な暴れぶりを披露していた。 番小屋には執事のカトが先立って踏み入れてきて、クイントゥスに事の委細を述べ伝えた。 「この女を牢屋に入れたい」 深いしわの這う物知り顔を崩さず、カトは言った。 「牢屋へですか。何者です?」 「だんな様が連れてきた娼婦だよ。寝所で粗相があったらしく、立腹して牢へつなぐよう仰ったのだ」 「ですが――」 クイントゥスは言い淀んだ。 「ですが、この女はわが家の奴隷ではないでしょう。牢屋へ入れて良いものでしょうか?」 クイントゥスの指摘に対し、カトは冷静さを取り繕っていた。 「良いと仰っている。これは自由民だが、何日か牢に置いて反省を促す心づもりのようだ。命は取らん」 果たして信用してよいものだろうか?  クイントゥスは内心不安を感じた。 牢につないだが最後、だんな様、つまりアッピウス家の当主が命じない限り、娼婦が命あるうちに日の光を浴びることは無いはずである。
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