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「いらっしゃいませ」
入口のドアを開くと、来客を知らせるカランコロンという音と共に、ふわっと優しい珈琲の香りが全身を包んだ。
「あれ、高梨くんじゃないですか。今月はもう来ないかと思っていました」
中学の頃の担任の先生だと言うから、年配の人をイメージしていたのだが、そこにいたのは推定35歳くらいの長身イケメン。穏やかで物腰が柔らかそうなところは、史人くんと同じ雰囲気だ。望月珈琲店というから、きっと望月先生なのだろう。
「そちらの方は、彼女さんですか?」
そちらの方、と指名されたわたしは動揺した。なんと答えればよいのだろう。
「まっ、まだ違うよ!友達の紹介で連絡取ってて、今日初めて会ったんだ」
「へぇ…」
望月先生は何か言いたそうにしているが、敢えて何も言わなかった。
「立ち話も何ですし、お好きな席にお座りください。すぐにメニューを持っていきますね」
カウンター5席、テーブル3席。とてもこぢんまりとしたカフェだ。机も椅子も壁も木だからだろうか、まるで森の中にいるような錯覚に陥った。アンティークで控えめなインテリアも、微かに聞こえるBGMも、全てが心地よかった。
「高梨くんはいつものでいいですか?そちらの方は何に致しましょう?」
「みのりと申します。そうですね…」
メニューにざっと目を通す。その間も望月先生はにこにことしてわたしを待っていた。
「ホットコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
注文を聞くと、すぐに濃厚な珈琲の香りが漂い始めた。抽出を始めたらしい。
「本当は色々聞きたいことがあるんですけど、今日は止めておきます。どうぞごゆっくり」
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