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「予約の○×さん、ケーキ受け取りに来るの、三時半だったよね?」
「もう六時近いのに、どうしちゃったんだろ」
「電話してみようか」
あの日、誕生ケーキを注文したお母さんが、待てど暮らせど現れない。
生物だから日を跨いで取り置きなんてできないし、後一時間程で店は閉店するから、その前にどうしても受け取りに来てもらわないと。
そう思い、店員の一人が連絡先に電話を入れた。その表情と口調がたちまち慌てたものになる。
「えっ。そんな………はい、はい。判りました。では、申し訳ありませんが、また後日、代金を受け取らせて頂くということで…はい、このような時に不躾な電話をしてしまい、申し訳ありませんでした」
非常に恐縮した様子で通話が終わる。当然みんな、何があったのかと興味津々だ。
「○×さんとこ、何かあったの?」
「それが…下の娘さんが、昨日、交通事故で亡くなったって……」
「ええええ??!!」
電話で聞いた話では、下の娘さんが事故で亡くなったため、今は葬儀の準備でてんやわんやだということだった。ケーキについては、仕込みの関係で、前日ではキャンセルも聞かないので、後日、落ち着いたら代金を支払いに来てくれるらしい。
予約の日、上の娘さんが言っていた、ろうそくはいらないという言葉。あれはもしやこのことを予知しての発言だったのだろうか。でもそれならば、ケーキ自体が必要ないことも知っている筈だし。
その些細な疑問は、続く話の中で解消された。
「あと、電話の向こうで、上の娘さんだと思うんだけど、『ケーキはできてるんだから貰いに行こうよ!』って喚いてる声が響いてて…なんかすっごく怖かった」
妹は五歳の誕生日を迎えない。だからろうそくはいらない。でも、ケーキは自分が食べたいから予約させたってこと?
みんな、考えることは一緒らしく、顔を見合わせて店員一同、ぶるぶると身を震わせた。
…ちなみに。
この日から一週間くらいに、やつれた様子のお母さんが代金を払いに来てくれたけれど、上の娘さんは一緒じゃなかった。そして、ろうそくのことや娘さんのことを聞ける雰囲気もなかった。
そしてこれ以降、この親子連れが来店することは一度もなく、結局あの日の発言は何だったのか判らないまま、それでもこの話自体は、店が関わった不思議な話として、いまだに語り草になっている。
誕生ケーキ…完
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