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誕生ケーキ
洋菓子店で働いている。
そんなに大きな店じゃないけれど評判はよくて、常連さんもかなり多い。
今来店している親子連れもそう。
お母さんと二人の娘さん。今日の目的は下の娘さんの誕生ケーキの予約。
見本の置かれたショーケースに貼りついて、どれがいいかとたくさん悩み、最終的に、フルーツ盛りだくさんのデコレーションケーキに決定した。
誕生ケーキなので、お祝いの言葉や娘さんの名前のデコ記入などを聞き、これで注文は完了。あ、そそうそう、もう一つ。
「ろうそくは何本おつけしましょうか?」
ホールのデコレーションだもの。ろうそくは当然必要よね。
「五本でお願いします」
お母さんがそう答える。それを、上の娘さんがすぐ否定した。
「お母さん、ろうそくいらないよ。だってちーちゃん、五歳にならないもん」
その発言に、店にいた、上の娘さん以外の全員が一斉に固まった。
あんたは何を言ってるのよと、お母さんが上の娘さんをたしなめる。それでも上の娘さんはろうそくはいらないと言い張り、下の娘さんは何でと泣き出してしまった。
凍りつくような空気の中、お母さんが娘さん達の腕を引っ張って店を出て行く。それを見送り、残った全員で、あれは何だったんだと顔を見合わせた。
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