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◇
ああ、いけません、いけません!
このままではバイトに遅刻してしまいます!
本日のバイトは時給の良いお仕事なので遅刻をするわけにはいかないのです。私は大好物であるファミマのピザマンを口に咥えたまま、ごく普通の女子高生が全速力で出せる限界の時速三十キロくらいの速度で路地から飛び出します。
おっと! なんということでしょう!
私が飛び出したその先にはなんと男の子がいるではありませんか!? ああ、この時、ごく普通の女子高生ならば走り高跳びのベリーロールの要領で上手に男の子の頭上を飛び越えて躱せていたのでしょうが……
そう、この時、私は大親友であるリノちゃんから勝手にご拝借していたスマートフォンを片手に『基本無料アプリ』を謳いながらも課金への射幸心を煽りまくるゲームをプレイしながら走っていた為、完全に前方不注意となってしまっていたのです!
その結果。勢いよく男の子と衝突しまうとても可哀そうな私。
口に咥えていた大好物であるピザマンと、手にしていたリノちゃんのスマートフォンが宙を舞います。
――ああ、私の大切なピザマン。
……と、
ついでにリノちゃんのスマートフォン……
私は迷わずに自分のピザマンへと懸命に腕を伸ばしますが不覚にも尻もちを付いてしまっていた為、大切なピザマンを救出することは願い叶わず、無情にもアスファルトの地面へと落としてしまうのでした。
oh……神は死んだと思われた――その時です!
衝突した勢いで頭から血を流し倒れていた男の子が「まだ諦める時間じゃない!」と雄叫びを上げて身を起こすと、リノちゃんのスマートフォンを足で踏みつけながらも、アスファルトに落ちたピザマンを颯爽と拾い上げ、燦々と輝く太陽のような笑顔を浮かべて私に向かってこう言葉を投げかけるのでした。
「ふう、危なかった……『三秒ルール』――ギリギリセーフかな?」
そうして、男の子から差し出されたピザマンを受け取った私は頬を染めながらお言葉を返します。
「ああ、これはご丁寧にありがとうございます。『三秒ルール』というのは実は賞味期限のようなものなので多少過ぎても問題はないのです。あくまで美味しく食べられるかどうかの指標に過ぎないのですよ。今日のように晴れて乾いたアスファルト上ならば五秒……いえ、六秒までならギリギリセーフなのです」
――と。
◇
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