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「もう行って、誰かに気づかれるといけないから…。」
いくら求めても願っても叶えられない。もし懇願して叶えられたとしても、それは一時のこと。明日から高村くんは転校して私の知らない世界を歩いていくんだから…。
それなら二人の心残りを私が断ち切る。
「乗って。」
「…夕貴。」
まだなにか言いたそうな彼の後ろに回り背中を押した。
いつまで話しても何も変えられないのは分かっている。泣いてしまわぬうちに、行かなくちゃ…。
押されてゆっくり腰を曲げて車に乗り込むのを見届け、顔を見ることなく踵を返して家に向かって歩き始めた。
車を見送ったらきっと泣いてしまう。
涙を見せたら彼の決意を鈍らせる。
これでいい。未練は仕事の邪魔になる。
車が発進し、遠ざかって行く。
その音を背中で聴きながら、胸がキューンと傷み、涙はとうとう決壊し頬を伝い始めた。
もう泣いたっていいよね…彼には見えないのだから…
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