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「よーすけっ」
涼しくなってきた夕方、窓を開けていると名前を呼ばれた。
「遙奈」
すぐ傍の窓から幼なじみの遙奈が手を振っている。
「宿題、終わった?」
屈託のない笑みを浮かべながら窓の縁を乗り越える。
「後少し……って、お前、窓乗り越えるの止めろってこの間おばさんに怒られただろ」
「別にいいの。ここからが一番陽介のところに行くのに近いんだし」
ケロっとそう言いながら遙奈は本棚を漫画漁っている。
許可を出す前に漁り始めるのはいつものことだ。
「遙奈は宿題終わったのかよ」
「もうとっくにね」
あ、これの続き出てるじゃん! と続き物の漫画を手に取ると、遙奈は陽介のベッドに寝転んだ。
「お前なぁ……」
「早く終わらせてよー。今日の約束、覚えてる?」
今日、8月末日は地元の小さな祭りがあって花火大会もある。
この祭りに行くのは小さい頃から続いていた。
「はいはい、後少しだからそれ読んで待ってろ」
早くねー、と念を押して遙奈は漫画本をめくり始めた。
物心着いたときから遙奈と一緒だった。
高校まで同じで、遙奈が同じ学校にいることが当たり前だとおもっていた。
だが、来年から大学に進学すると初めて別々の場所を歩んでいくことになる。
ちらりとベッドに寝転ぶ遙奈を見やった。
頼むから、ほかの男になんて……
願いは心の中に。
「陽介終わったー」
ハッとして顔を上げた。
早く、早く、と言わんばかりの遙奈の表情が見えてまだ終わっていない受験勉強のテキストを閉じた。――宿題は夏休みが始まってすぐに終わらせている。
「……終わったよ」
「じゃあ、早くいこう?」
遙奈は律儀に漫画を本棚に仕舞う。
「お前、持ちもんは」
あるでしょ、あたしの、と少し小さめのショルダーをベッドの下から取り出した。
「今年の誕生日に陽介がくれたやつ」
これ持って行きたかったんだ、と取り出したショルダーに財布と携帯、それからどこから出てきたのか? と思う必要最低限のものを仕舞っていく。
「お前、浴衣は」
「今年は着ない」
「なんで」
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