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「遙奈……?」
親友の友紀と久しぶりに会おう、という話になって待ち合わせた東京駅。
声を掛けられてでも遥奈は顔を上げることが出来なかった。
声を、知っていた。
聞こえなかったフリをしよう。
でも。
ゆっくり視線を上に向けて――「よう、すけ……」
その名前が口から勝手に零れ出る。
やっぱり、と呟いてほうっと大きく肩を震わせたのは誰でもなく幼馴染の陽介だった。
「ごめん、声掛けない方が良かった……よな」
「えっと、その……」
突然の再会に遥奈は戸惑いを隠せない。
「元気そうで良かった。――じゃあ」
またね、とは言ってくれなかった。
いや、言ってくれるなんて思っていない。
あの頃より大きくなった背中を遙奈はただ黙って見つめることしか出来なかった。
「…………な。る……奈!」
「――!」
肩を叩かれて慌てて振り返る。
「あ、友紀……」
「どうしたの? 何ボーっとしてたの?」
「……ううん、何でもない」
見つめた先にもう陽介の背中は見えない。
「わざわざ来てもらってごめんね?」
友紀が申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。
「大丈夫。有給使わないと会社から怒られちゃうから」
友紀は今、東京の証券会社で働いている。
「いいよねー、遙奈の会社。うちなんてさ――……」
遙奈も上京し、都内の会社で働いている。
あたしたちはいつの間にか大人になった。
どうして陽介はここにいたのだろうか。
偶然通りかかっただけなのか、それとも何か意味があったのか。
いや、もう関係ない。
陽介とは、もう縁が切れたのだ。
陽介が上京し、遙奈が地元に残った五年前に。
あの夏の日、どうして想いを伝えなかったのだろうと後悔し続けて、先日ようやくその想いを断ち切ろうと決めたばかりなのに。
何で今さら目の前に現れるの? どうして。
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