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***
5年前――
『無事、志望大学に合格しました』
携帯電話が着信を知らせた。
相手は陽介で内容を確認すると思わず声を上げた。
「へぇ! さすが陽介!」
すでに地元の大学に合格していた遙奈は陽介の吉報にいち早く飛びついた。
いつものように隣の家の窓をノックする。
最近親に怒られたばかりなので声を出さないように陽介を呼ぶ。
するとすぐにカーテンが開けられて曇った窓ガラスから陽介の顔が見えた。
「早い」
「当り前でしょ?」
そっち行っていい? と断りを入れると「無断でいつも入ってるだろ」と言いながら陽介が手を伸ばした。
お、珍しい。そう思ったのも束の間、陽介は遥奈の腕を強く引いた。
「ちょっ……」
危うく落ちるところだったじゃん!
そう言うはずが、遥奈の口から出た言葉は違った。
「陽介、背が伸びた?」
「――は?」
「あ、や、あの……」
今まで何とも思わなかった陽介の身体。
だけど、今、遥奈の腕を引いた陽介は明からに男の子の身体だった。
「背は伸びたかな。夏から10センチくらいは」
「え、ほんと?」
「最近毎日会ってなかったもんな」
受験シーズンに突入した年明けはほとんどの高校三年生は登校しない。
そういえばここ最近、陽介と会う機会が減っていた事に気付いた。
ほんの数日会っていないだけでこうも変わるものなのか。
頭の中でぐるぐると今までにない感情が巡っている。
「……遥奈?」
俯いた遥奈の顔を陽介が覗き込む。
ドキン。
強く脈打つ心臓と、徐々に赤く染まっていく遥奈の頬。
「どうかした?」
何ともない陽介に遥奈は思わず顔を背けた。
「な、なんでもない! それより、大学合格したんだね、おめでとう!」
ドクドクと脈打つ心臓の音が耳に鳴り響いて煩い。
それを紛らわせるかのように本来の目的を告げた。
「ああ、うん……さんきゅ」
「陽介さすがだよねー! 4月から頑張って」
「……ああ」
陽介の返事はどこか空返事だった。
「?」
疑問に思って顔を上げると至極間近に陽介の顔があることに気づく。
いや、さっき遥奈が顔を背けただけで陽介はそこから動いていないだけだ。
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