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「すぐに貢様のお部屋を整えて参りますので、今暫くこちらでお過ごしください」
「ちょ……っ、ちょっと待ってっ。急にどうしたんですか? 知らないって一体……っ?」
踵を返した背中に問いかけるが、答えは返らない。
加用は、歩を緩めることなく襖に手をかけると、ふと立ち止まり、一言だけ小さく呟く。
「……私には、あの方がわからない」
「え……?」
それ以上に言葉はなく、静かに襖が閉められる。
「わからないって……、何が……?」
置き去りにされたその声は、低く暗く、ひとりきりになった部屋に残響のように響く。
「加用さん……?」
貢はただ呆然と、一方的に閉じられた入口を眺め続けた。
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