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しばらく肩を震わせていたが、次第にそれも治まり、少女は手の甲を涙で腫れた瞼へ押し当てた。そして冊子の表紙をめくる。読むためではなく、ある物を取り出すために。
「……」
向日葵の黄色い花弁があしらわれた栞。軽く指先で撫でた後、胸へと押し当てた。
「ん」
胸から、甘く、くぐもり、色褪せた夏色の回廊が開ける。唯一実感の持てる自分の記憶。
曲がりくねった土絨毯とそれの両側から迫り立つ緑色と茶色と黄色の垣根。天高くは突き抜けた青空と入道雲。見上げているだけでくらくらと眩暈が起った。
夏色に染まった景色の中で誰かが少女を呼ぶ声が聞こえた。
黒茶けた色に日焼けした少年があどけない笑顔でこちらに笑いかけていた。
「ユウ…」
再び白いレースのカーテンが穏やかな表情で瞳を閉じる少女を優しく撫でた。
この時既に少女から今日は消えていた。
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