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子供の頃の記憶は、ほとんどない。
思い出すのは、鼻に染み付いた病院の匂いばかり。
病弱だった僕には、遊び回るという行為は不可能だった。
しかし、唯一。
たった一度きり、外で遊んだことがある。
家が隣で歳が近かったからか、翼(たすく)兄ちゃんとはよく遊んでいた。
いつもは僕の部屋でゲームをするのだが、なぜかあのときは。
近所の公園の一本松。
とても大きくて、太くて、まるで柱みたいだった。
翼兄ちゃんは猿のように松に登った、けど、木登りなんてしたことなかった僕は、木の下で翼兄ちゃんを見上げることしかできず。
―危ないよ。降りなよ。
僕は泣くように―実際に泣いていたような気もするが―喚いた。
―大丈夫、大丈夫。琥珀もこっち来いよ!気持ちいーぞ!
翼兄ちゃんは笑ってた。
強がりでもなんでもなく、心から。
その時。
―おーい!…あっ!!
僕に手を振ろうと木から腕を離した、が、バランスを崩してしまい。
―翼兄ちゃん!!
地面が柔らかかったことと、当たりどころがよかったことが幸いして、大事故には至らなかった。
でも、その日以来、翼兄ちゃんが木に登るところを僕は一度も見ていない。
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