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「ねえ、牝牛さん。牝牛さん。ちょっと!」
「なによ?」
牝子牛の蒙子は、キッ!とその声の主を睨み付けた。
「そんな、キツイ顔をする理由解るよ。この僕も・・・」
牡子牛はそこまで言うと、鉛色の空を見上げた。
「俺のママ、『肉』になったんだ。君もそうなの?」
牡子牛はそう言うと、呆然とする牝子牛の蒙子の鼻と自らの鼻をそっと押し付けた。
・・・何だろう・・・
・・・この優しい感触は・・・
「俺、『日陽丸』(ひざしまる)って言うんだ。君は?」
「私・・・わたしは『蒙子』っていうの。わたしのママもあんたと同じく、売られて『肉』になったの。」
「そうなんだ・・・同じだね。」
ドキドキドキドキドキドキドキドキ・・・
・・・これって、恋っていうの・・・?
ドキドキドキドキドキドキ・・・
「ねえ・・・」
「なあ・・・」
「大きくなったら、あたしと一緒になろうね・・・!」
「大きくなったら、俺と一緒にならないか・・・?」
「あっ・・・!!」
「あっ・・・!!」
2頭の子牛は、交わす言葉が異口同音だったので、お互い目をそらして恥じらった。
「私、あんたの子牛を産みたいの・・・」
「俺、お前の子牛を・・・」
「『結婚』しよう!」
「『結婚』しよう!」
じろーーーーーっ。
その瞬間、他の子牛達の視線が2頭に集まり、蒙子と日陽丸はそそくさと寄り添って、この場をさっさと歩いて逃げた。
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