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「んもーーーーーーー!んもーーーーーーー!」
すっかり成長した黒毛和牛の日陽丸は、牧場主に曳かれてトラックに載せられた。
業者に引き取られる為だ。
そのことは、牝牛の蒙子には知らされていなかった。
・・・いよいよ、『この瞬間』がやって来るわ・・・
・・・それまで、体力つけなきゃね・・・!
蒙子はそう思って、日陽丸があの子牛の時に交わしたあの『約束』のことばかり考えていた。
来ない。
来ない。
来ない。
来ない。
蒙子の愛しの日陽丸は、全然姿を現さなかった。
「あの生意気な『みなし子牝牛』、まだ売られてなかったのかい?!」
「『みなし子牝牛』が子牛の時にいつも一緒だったあの牡牛、何処に消えたのかな?」
「今頃そいつ、『牛肉』になったりして!!アッハッハッハ!!」
のっしのっしのっしのっしのっし・・・
「お前らなあ・・・!!」
蒙子が通りすがるなり、陰口を叩いた牛仲間に、蒙子は怒りの形相で迫ってきた。
「だって本当じゃん!!私らも、そのうちどっかのトサツ場に連れていかれて、『牛肉』になって人間に『ゴチ』にされるんだよ。
無論、おめえ『みなし子牝牛』もね。」
「お前ら!!言わしておけばいい気になってーーーー!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
怒り狂った蒙子は、今度は向こうの方へ走っていくと反動をつけて蒙子の悪口を叩く牛達へ猛突進を仕掛けてきた。
「おーれいっ!!」
「おーれいっ!!」
牛達は、蒙子が突進しても身を翻して交わしまくった。
激しく取り乱して狂ったように走り回る蒙子をからかいまくっていたのだ。
ドドドドドド・・・
ドタッ・・・
蒙子は、悲しみの余り牧場のど真ん中で遂に立ち上がれなくなった。
「ううううう・・・日陽丸さん・・・!!
何で私達は一緒になれないの・・・
んもーーーーーーー!!んもーーーーーーー!!」
蒙子は牧場のど真ん中で、激しく泣きわめいた。
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