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声の主が一瞬で神崎君だとわかるのは、私が彼を好きだから?
ツリーを一緒に見たかったなんて思ったから、幻聴が聞こえたのかも。
期待しないように、それでも。
ゆっくり私が振り返ったのと同時に肩に手が乗った。
「こらっ!勝手にさっさと帰るな!」
こんなに雪かぶって!
「っ、」
大きな手が私の頭をポンポンと撫でるようにして、それから肩とマフラーに積もった雪も払ってくれた。
「俺はお前を送ってくって言っただろ」
少し垂れ目の奥は本当に怒った色が混ざる。
「……雛子ちゃんは?」
「ひなこ?……あぁ、姫野の事か?姫野ならアイツの同期に任せてきた」
「送らなくてよかったの?」
「ん?毎回姫野を送る義理はないしな」
「義理って……あんなに仲よさそうだったのに」
自分の所に来てくれて嬉しいくせに。
雛子ちゃんと居ない事を問い詰めるなんて。
「仲よさそう?お前にはそう見えてたのか?」
信じられないとばかりに目を見開く神崎君を睨むように見上げた。
「腕組まれたってべたべたされたって嫌がってないもの、仲よしに見えるでしょ?」
あぁ、ちょっと、待ちなさい栞。
こんな言い方、彼女でもない癖に。
でも言ってしまったから仕方ない。そのままじっと神崎君を見つめたら、彼は優しく顔を崩した。
「だって俺、姫野の事はなんとも思ってないから」
「……え?」
「だから、嫌だと思うことすら思わない相手だってこと」
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