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「わ、私は大丈夫!雛子ちゃん介抱してあげたら?」
思ってもない言葉がぽんと口をついた。
にやりと口の端を持ち上げた雛子ちゃんの表情なんて、神崎君は見ていない。
みんなでぞろぞろと店を出た所で腕を掴まれた。
「おい、成宮」
「っ、」
振り返れば必ず神崎君の隣に居て、視界に入る雛子ちゃんにますます気分が悪くなって。
「お前、本当に顔色……」
「じゃー、俺が送っちゃおうかなぁー」
神崎君の心配そうな声を陣内君が遮った。
「成宮は、俺がちゃーんと送ってくから」
「えっ、いいよ、陣内君!私1人で大丈夫だって」
「いいからいいから。っていうか、アレ、割と本気だから」
「アレって?」
「俺と付き合おうって話ー」
わざとらしいくらいの声色で、陣内君はちらりと神崎君を見て、そして私の肩を抱くようにして歩きだした。
「ちょっと、陣内君?」
肩を抱く腕から逃れようとしても、ますます力を入れて抱き寄せる。
「いいから、アイツ等と少し離れるよ。ベタコちゃん見るたび顔色悪い」
そう言う陣内君の声は少し低く内緒話をするようだった。
どんどん足を進める隣で、とにかく肩を抱かれてるから必死に足を動かした。
「もーいいかなー?」
独り言のようにそう言った陣内君は腕を緩め、足を止めた。
はぁ、
少し息が切れ、吐き出した白がふわりと浮きあがりすっと消える。
目の前に立つ陣内君へ視線を上げた時、ちらちらと雪が降り始めた。
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