第1話 かつての英雄は低年収社畜

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23時30分、凡そ16時間にも及ぶ激務を終え退社。 同僚を飲みに誘う体力も無い程に疲れ切った体だが、まだ重要な仕事が残っている。 そう、それは夕食の確保。 会社の駐輪所に停めてあった自転車に跨がり、大急ぎで帰路にある大型スーパーヤマヅキに向かう。 ヤマヅキの閉店時間は24時30分。 この店は何と社会人に優しい事に、閉店の1時間前から弁当・惣菜のタイムセールを行う。 ここで得られる半額、或いはそれ以上の値引きがされた食料こそ私の今日の夕食と明日の朝食となるのだ。 腹が鳴る。 腹に物を詰めたいという欲が、クタクタに疲れた体を奮起させペダルを漕がせる。 この一時、私は空腹に任せて風を感じ一日のストレスを発散させるのだ。 「いらっしゃいませー。」 眠い、早く帰りたい。 多分今の私と同じ気持ちが籠った挨拶の声。 これを主婦が目を光らせる夕方の時間帯にやってしまうと即座にクレームものだが、 今の時間帯に来る客は皆店員の気持ちを痛い程に理解しているので突っ掛かる者はいない。 そんな時間があるならば帰って寝たいと思うのが普通だ。 「よう、今日もお疲れさん。」 「そちらもな。」 既に夕食の確保を終えレジへと向かう顔見知りと軽く言葉を交わし、弁当・惣菜コーナーへ急ぐ。 社会人のマナーとして、どれだけ急いでいても店内で走ってはいけない。 なので、速足。 速足で歩き、弁当・惣菜コーナーの前に立つ。 「さて、今日は……………………………」 ヤマヅキの特徴は、何と言ってもその開き直り具合にある。 昨今何処でも安全で美味しい食材と高級志向に走っている中で、 ヤマヅキは兎に角安さを追求し主婦ならば敬遠してしまうような産地の物でも平気で店頭に並べる。 だからこそ、安い。 早い安いマズイが売りだった某ハンバーガー店も見習って欲しいものだ。 変に高級指向になるから最高赤字を叩き出すのだ。 その上昼のセットを無くすとは、自ら死にに行っているようなものだ。 一体彼らは何時過ちに気付くのだろうか。 「海苔弁、大盛り海鮮焼きそば、鯖味噌弁当、特盛ナポリタン…………は気分ではないな。」 やはりここはコストパフォーマンスの良い大盛り海鮮焼きそばを選ぶべきか。 いや、久々に鯖味噌で一杯やるのも悪くない。 今日の獲物を前に迷っていると、後ろから声を掛けられた。
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