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あながち間違いでもない。
血の眷属にされた人間は確かにその吸血鬼を愛する人形に変わるが、何もそれ以外の感情や意思が消えるという訳ではない。
感動的な小説を読めば涙するし、高級料理を食べれば美味しいとも言う。
スポーツに精を出す者もいるし、絶対の愛を誓った吸血鬼の他に好きなアイドルに熱中する者もいる。
それが許される。
血の眷属になる見返りとして様々な恩恵があるのだ。
だから、自ら進んで血の眷属にしてもらいたいと願い出る者もいる。
私は絶対に嫌だが。
「そうだよね、そうでなきゃ駄目なんだよ。
君達下等種族は、僕達のような優れた存在に愛される事に最高の喜びを得なきゃいけないんだ。
彼氏がいる?
それがどうした?
ただの餌………豚じゃないか!
君は豚の相手には勿体無い人間だ。
だから僕が迎えてあげるんだ。
さあ、おいで。
僕が君を好きでいられる間にさ。」
吸血鬼は屈託の無い歪んだ笑顔で女に手を差し伸べる。
その手を握れば、永遠に変わらぬ愛と優美な生活が待っている。
主の吸血鬼が死ぬまで変わらぬ姿で、中世の王族貴族のような贅沢な暮らしが。
それが理解出来ない程哀れな脳味噌では無いはずだが、それでも女は拒んだ。
「どうか、どうか御許しを……………私は──私は人として生きたい!!!!」
吸血鬼の瞳が猫のように鋭くなる。
そして目の横の血管が根を張るように浮き上がる。
吸血鬼が興奮した際に起こる変化だ。
このままでは私も巻き添えを喰らってしまう。
なので不本意だが、咄嗟に女の擁護に出る。
「お待ち下さい吸血鬼様。
吸血鬼様の血の眷属にして頂くという、私達下等種族である人間には身に余る光栄。
まさか自分の身に起こるとは予想もしていなかったでしょう。
有り得るはずがない、その感情が貴方様の有り難き申し出を否定してしまうのです。」
目の横の血管が退いていく。
どうやら殺意は幾分か納まったようだ。
畳み掛けるならばここだ。
「吸血鬼様、私達人間にとって貴方様の愛は貴方様が思っている以上に大きいのです。
故に、受け止め切れない。
ですから、どうか寛大な慈悲の心を以てこの愚かな女を御許し下さい。
そして貴方様の偉大なる愛を我が同胞にお与え下さい。」
フッと、吸血鬼から刺すような殺意が消える。
目も戻り、血管も退いていく。
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