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怒りは納まったようだ。
「そうか………成る程、君達人間にとって僕達の愛は信じられない程に大きいものだったんだね。
そうだよね、僕達と同じ基準で考えちゃいけないんだ。
無知な子供を相手にする気持ちじゃなきゃね。
直ぐに殺しちゃうのが僕の悪い所だ。
ありがとう君、何で人間が僕を拒むのか漸く合点がいったよ。」
「お褒めに与り光栄に存じます。」
しかし吸血鬼はでも、と続け。
「何か君に上手く誘導されてるみたいで気に食わないや、死んじゃえ。」
何故そうなる。
予想の斜め上を行く論理で、吸血鬼は女に抱いていた殺意の矛先を私に変えた。
一瞬で目は鋭く血管が浮かび上がり、鋭い爪の生えた手を私の顔に向けて突き出す。
「─────────餓鬼が。」
顔面へ突き出された吸血鬼の左手を横から右手で掴み、それを巻き込むように後ろへ引く。
そして体を滑らせて吸血鬼の頭を後ろから左手で掴み。
一度上に振り上げ、勢い良く地面に叩き付けた。
ドゴッ!!!!
と、コンクリートが砕け散り派手な音を立てる。
「…………………全く、吸血鬼殺しなんて今時流行らんだろうに。」
ピクピクと、首から下をコンクリートに埋めた吸血鬼は手足を痙攣させる。
が、それも直に止まるだろう。
吸血鬼の頭は高い所から落とした卵のように割れている。
高い治癒力と生命力を持つ吸血鬼と言えど、これは即死だ。
「………………………女、今夜お前は何も見ていない。
吸血鬼に襲われてないし、それを殺した人間とも会っていない見ていない………良いな?」
「へ、あの、何が…………………………」
「この事は他言無用だ。
お互い面倒事に巻き込まれたくなければな。」
吸血鬼が死んだ。
人間に殺された。
その現実を受け止めるのに、女は1分近くの時間を要した。
理解して、驚愕に満ちた顔で疑問を投げ掛ける。
「あの、貴方様は………………………………」
「社畜だよ。
日々の激務で心身を磨り減らすただの社畜だ。」
もう一度他言無用と念押し、愛車に跨がる。
早く帰らなければ。
私はもう吸血鬼相手に大立回りを演じるような生活からは卒業したのだ。
今は仕事終わりの晩酌を生き甲斐とするくたびれたサラリーマンなのだから。
こんな非日常からは早く去るべきなのだ。
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