第1話 かつての英雄は低年収社畜

8/12
前へ
/12ページ
次へ
折角温めた弁当が冷めてしまう前に。 「いただきます。」 鯖味噌弁当とカキフライ、そして冷えたビール。 これが私の今日の晩餐だ。 「どれどれ、先ずは………………………」 申し訳程度に黒ゴマ塩を振り掛けられた大盛りの白米。 付け合わせの柴漬。 アルミ箔で小分けされた小松菜のゴマ和えときんぴらごぼう。 場違い感のある一個だけ入った唐揚げ。 色合いを考えてか、端に置かれた卵焼き。 そして、メインの鯖味噌。 やはり最初の一口は、鯖味噌で行こうか。 まだ湯気の立つ鯖味噌に箸を突き立て、半口分だけ切って口に運ぶ。 舌に乗せて直ぐに感じたのは、鯖味噌が浸っていた味噌ダレの甘さ。 そして噛み締めると、染み出てくる鯖の魚汁。 それが味噌ダレと合わさる事で、魚臭さの消えた旨味だけが舌を包む。 ここで空かさず、白米を口に含む。 「あぁ───────────」 白米と鯖味噌の組み合わせ。 最高だ。 鯖味噌単体よりも、白米と一緒に食べる事で旨さは何段階も上がる。 日本人に生まれて来て良かった。 「おっと、忘れてはいけないな。」 口の中の物を飲み込み、ビールを喉へ流し込む。 冷たさと炭酸の刺激が喉を通り抜けて行くこの感覚。 味も香りも薄くコクが無いと大批評を喰らってタダ同然の値段で投げ売りされていたビール。 だが、ビールである事に変わりは無い。 それに私は七福神の一柱の名を冠する高級ビールとは無縁の底辺社畜。 味も香りもコクも無いと言われても、正直世間一般のブルジョワ共が満足するようなビールは飲んだ事が無いので分からない。 だから私はこれで満足だ。 安い物で満足できるのだから、寧ろお得だと思う。 『本日未明、セイゴー総合食品グループの代表取り締まり役を務めるヘンウッド男爵様の御屋敷で爆発が起き─────』 「また日本解放戦線か………………うちの取引先だけは勘弁して欲しいものだな。」 日本解放戦線。 吸血鬼に支配された日本を解放すると言う大義を掲げてはいるが、 要は時代に適応出来ず社会からはみ出した不適合者の集団──所謂テロリストだ。 10年前世界最後の人間主権国家である日本が神聖ワラキア皇国に降伏するまで、 世界で最も長く激しく抵抗を続けた武装組織………の残骸と言うべきか。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加