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「BAの佐伯様まで届けてきます」
「サイン! よろしくね!」
今度は友紀ちゃんまで…。色紙、買って行こうかな…。失礼かもしれないけど…。
ちょっとしたことで、佐伯の叔父と知り合いになった。その伝で、グラブを作ることになった。
これは私が魂を込めた、と言っていいだろう。いや、いつもそうだ。しかし、私は贔屓目に想って造ったのかもしれない。佐伯の叔父に、私が佐伯に似ていると言われたから。
佐伯は私の造ったグラブをつけ、甚く感動してくれた。絶賛してくれた。しかしひと目私を見て、私があまりにも若いので、使いっぱしりだと思ったようだ。
話をすると同い年だった。お互いに24才。野球談義が尽きなかった。そこで私は佐伯にひとつのグラブを注文してもらった。
「この子は身体が小さくて…。しかしガッツもあって、将来は確実にプロに行くでしょう。一度、プレーとその子の手を見に来てもらえませんか?」
この佐伯さんが指導しているチームのことは知っている。この近辺でこの少年野球チームを知らない者はいない。連戦連勝、アウトにならないチームなんて聞いたことがない…。私は元々興味があったので、休日に練習グラウンドまで足を運んでみた。
「セカンドを守っている子です。動き、いいでしょ?」
佐伯が自慢げに話す。いや、もっと自慢してもいいと私は思った。
「元プロの八丁畷さんの秘蔵っ子ですよ。愛弟子なんです」
いやいや、まだ10才であの動きはないでしょう…。私は言葉にできなかった。私は作りたかった、あの子に。
細かいデータを取り、オーダーシートに住所と氏名を記入してもらった。子供なのに達筆だった。恐れ入ってしまった…。
この時は気付かなかった。よくある名前だ。
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