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鈴木心一。10才…か。私は彼のプレーを思い出しながら、まさに魂の一作を造り上げた。気に入ってくれるといいのだが…。
「あら、この子って…信太君の…」
私の幼なじみ、事務員の沙恵がオーダーシートを見ながら私に言う。
「信太君の弟よ、心一君…」
私は中学の時に引っ越した。だから、知らなかったんだ。信太とは音信不通だ。
信太は小学校6年の時、交通事故で亡くなった。下校中、暴走車に跳ね飛ばされたのだ…。
どこの親でもそうだろう。子が亡くなったら、さらに子を作るなんて考えないだろう。しかし、この両親は子を欲したのだ。そして、心一が生まれた。
きっと信太が心一を生ませたんだろうな…。私は涙した。そして、約束よりは少し早いが、心一に…いや信太にグラブを贈ることに決めた。
私は心一に話をした。心一も兄がいたことは知っていたようだ。
「キミがプロになったら、また造らせてくれないか。信太との約束を果たしたいからね」
「はい! よろしくお願いします! ありがとうございました!!」
心一は宝物のように、グラブを扱ってくれる。そして、この前私が見た時よりもすばらしいプレーを私に披露してくれた。
私が心一に声援を送る。心一は私が造った小さなグラブを、自慢そうに軽くかかげて、私の声援に応えてくれたんだ。
そこには信太がいるように、私のぼやけた眼に映り込んで来たんだ。
―― 終わり ――
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