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未だ突き進もうとする手の中の槍を掴んで離さず、必死に止めようとする拓也の腕の中で…骨、筋繊維ら諸々が上げる悲鳴が聞こえ始めた。
だが……ヒビが入った結界越しに目に入る、王城のだだっ広い庭に、溢れかえった大勢の国民たち。グングニルの穂先が結界を破ったことでそちらを見上げる彼らから滲みだすのは…純粋な恐怖という感情であった。
距離的にも自分の顔は確認出来はしないだろうが…拓也はとても申し訳ない気持ちでいっぱいで、表情を歪める。
オーディンと自分の戦いに巻き込んでしまった。
その影響で家屋が何軒も壊れてしまったし、街並みはオーディンのこの一投で直線状に破壊され……そして…今、まさに目の前に迫った危機。
命の奪われるという恐怖により、引きつる彼らの表情が…拓也の眼に焼き付くように映り込んだ。
「せめて…これ以上は…絶対に…ッ!!!」
激痛というアラートを出す体をエンドルフィンで捻じ伏せ、歯を食いしばり…腕を鞭のようにしならせて、突き進もうとする脅威を掴み足を結界の方へ向けるように態勢を整えた。
しかし、もう一部に穴が開き…ヒビが入った結界など足場にはできない。拓也は瞬時に大量の魔力を消費して足元に小さく…だが強力な結界を張ると、グングニルの巨大な推進力をも上回る力で右腕を振った。
凪払われた結界の破片が宙を舞い、キラキラとした粒子になって消えて行て行く。
ひとまずの脅威は…去った。
「ハァ……ハァ……。」
足元の結界を解き……ひび割れた結界に背を預け、呼吸を整える。
痛みは感じないが命令通りに動かない右腕をだらんと伸ばし、鉄の味のする口を大きく開けて天を仰ぐ。
見上げた空の重苦しくのしかかる暗雲に、こちらの気持ちまで重くなってきてしまうが……そうも言っていられない。
「我が渾身のグングニルを防ぐとは……流石であるが、随分と疲れているようだな…鬼灯拓也。
やはりそんなものは主にとって邪魔だ、足枷でしかない。どけ、我が始末してやる。」
オーディンの中で魔力が急速に高まり、練り上げられていく。それは…仰向けで結界の上に項垂れる拓也の後ろの王城どころか、この王都とその周りの地形数十キロを容易に消し飛ばせるほどの量だ。
そして前方へ展開する魔方陣は、薄い鼠色のような…灰の色。それが意味するのは、その属性が破壊であるということ。
どかなければ…もろとも消し去るということだろうか。
「クフフ……ハハハハ……。」
顔を起こして……光の漏れる瞳孔…その瞳で前方の大男を認識する拓也は……静かに笑っていた。
遂に気が触れたのだろうか。人間とは良く分からん生き物だ。そんなことを考えながらオーディンは魔方陣を完成させた。
それに歯向かうように…拓也の前方の空間にも魔方陣が構築され始める。大きな外円を描く属性は…同じく灰の色。
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