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「お、終わったァ!!」
言われた回数の逆立ち片手腕立てを終え、巻き藁から転げ落ちるビリー。
その傍らでは相変わらず小説を呼んでいる拓也。彼は相当読書にのめり込んでいるのかビリーがメニューを終えたことにも気が付かずひたすらページを捲っている。
セリーの喫茶店を手伝ってから数日経った平日の夕方。ビリーは依然として筋力トレーニングなどの基礎を行っていた。
「あ、あの…拓也君、終わったんだけど…」
「ちょっと待って、今いいとこだから」
修行より読書が優先かよ…。内心でそんなことをぼやくビリー。
すると、拓也はまるで彼の心境を読んだように大きく溜息を吐いて彼へ視線を送って不満そうに呟く。
「まさか弟子に優雅な読書タイムを邪魔されるとはな……」
「一体どこが優雅なんだよ…」
因みにビリーは知らないが、彼が読んでいる本は官能小説である。
拓也は重い腰を上げると、やる気のない様子でビリーの隣まで歩み寄って、少し面白そうにニヤリと口角を釣り上げ彼に問いかけた。
「まぁそんなことはどうでもいいとして…
なぁビリー、お前はなんで俺の下で強さを求める?」
突然真剣味を増した拓也の声色。普段とはギャップのあり過ぎるその声に慌てて隣へ振り向くビリー。
そんな彼の目に映るのは、巻き藁を睨むように見つめながら手を添え、真剣な表情の拓也。
まるで自分を試しているかのようなその質問に、ビリーは思わず息を呑む。
「そ、それは……」
一体何と答えれば正解なのか…考えるビリー。しかし答えなんて分からない。
そして悩みに悩んだ結果、固まっていないあやふやな意志を口にした。
「いつか僕にも大切な人が出来るかもしれないから…その人を護ってあげられるように…かな?」
恐る恐る口にしたその言葉。果たしてそれは拓也を納得させるモノだったのか?ビリーは心配そうに彼を間接視野に収めて様子を窺う。
すると拓也は考え込むように目を伏せ、眉を顰める。
そしてしばらくして決心が付いたのか、いつも通りのニヤけ面を顔に張り付けながらビリーの方へ振り向いた。
「……まぁ”合格”か…。
いいかビリー。力は断固たる意志の下で自制しなくてはいけない。それができない奴に、力を持つ資格は無い。これだけは覚えておけ」
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