第6章 僕

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随分真っ青になっちゃってるな。 ちょうど親指の付け根の上辺りが内出血して青くなっている。 「うわー青痣になっちゃってる。」 突然、頭の上から甲高い声が響いた。 さっきのOL風の女性が、心配そうに見下ろしている。 「凄い痛いですよね?本当にごめんなさい!」 「いや……でも君電車は?」 たしか彼女は、さっきの車輌に残っていたと思ったが・・・。 「びっこ引いていらっしゃるのが見えたので、気になっちゃって……あのぉ、これで冷やしてください。」 彼女が濡らしたハンドタオルを差し出した。 「そんな気にしないで。男の足だから汚いし。いや、別に汚くはないんですけど、綺麗ではないな、うん。て何言ってんだ僕は?」 「アハハ、あたし高校時代はサッカー部のマネージャーをやってたので、慣れてますから気にしないでください。」 「そうは言っても…」 「それよりそのまま放っとくと後で腫れ上がっちゃいますよ。今の内によく冷やしておかないとダメです。」 「判りましたマネージャー。」 僕も体育会系のテニスサークルだったので、ここは逆らえそうもないことはよく判った。 「ウフフよろしい。なんて私のせいなのに偉そうですよね。ごめんなさい。」 「そんなに謝らないでください。僕も不注意だったんですから。会社をズル休みしたんで、今日一日何をして過ごそうかぼんやり考え事をしてたもんで。」 「ズル休み!?」 「いけね。 嘘です。」 「もう遅いです。思いっきりバレてますよ。」 「アハハつい馬鹿正直に言っちゃったな。」 「いけないんだ。でも何だか羨ましいなぁ。そうだ!私も今日は一緒にズル休みしちゃおうかな!」 「それは…良くないと思うよ。」 「あなたが言わないでください!」 「そりゃそうか?」 「そうですよ!」 僕たちは顔を見合わせて笑い転げた。 「ハイこれでしっかり冷やしててくださいね。私もチョット会社に電話をして来ます。」 こうして僕ひとりで始まった冒険の旅に、もう一人の仲間が加わった。
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