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 刑事部屋に戻った岩崎は、そういえば富永の姿が無いことに気が付く。  始業10分前……。いつもなら誰より早く出勤して刑事部屋の掃除をしている。  岩崎は一度座った席を立ち、富永の直属の上司、強行犯係長に小声で尋ねる。 「富永はまだ来てないのか?」 「あれ?富永ならさっき、今日は出先に直行しますって連絡してきましたよ。……課長の特命、なんですよね?」  あいつ……。俺にも連絡しろよ、まったく。 「……ああ、そういえばそうだったな。忘れてた。じゃあ、誰に頼もうかな」 「別命ですか?」 「いや、いいんだ」  そう言って岩崎は、今度は薬物担当の巡査部長に声をかける。 「お前、今日の午前中、空けられるか?」 「急ぎものは……ありません。なんでしょうか」 「そうか、じゃあ悪いが急ぎで携帯の照会を一件、頼んでいいか?」 「はい。大丈夫です」 「じゃあ頼む。ええと番号は……あった、これだ。これの契約者と……そうだな……3ヶ月分の通話履歴を照会してくれ。投げ込みでな」  岩崎は机の中に入れていたメモ紙を巡査部長に手渡す。 「え……っと、これは……たしか昨日の……」 「そうだ。ちょっと気になるんでな」 「分かりました」  巡査部長はメモ紙を見つめる。  そこには一件の携帯電話番号と    いとう(ハ)女こども という文字が書かれていた。  結局富永は出てこないまま、時刻は昼近くになろうとしていた。携帯電話の照会も結果待ちだ……。  富永は何をしているんだろう。加藤美咲の同級生に当たっているのか?  いや、今日は月曜だから中学生は学校に行っているはずだ。  そして、加藤はもう何かを掴んだだろうか?  加藤……。俺には落としどころを用意することなどできないぞ……。  岩崎が思案に耽っていると、内線電話が鳴った。  ディスプレイを見ると、署の落とし物係からだった。  ……会計が何の用だ? 「……はい、岩崎です」 「あ、岩崎課長、あの……交通にかけたんですが、先週の死亡事故の件は刑事課長にって言われたんですが、よろしいですか?」  会計課の若い女性事務だった。 「ああ俺でいい。どうかしたのか?」 「市役所の道路維持課の人が拾得物を届けに来たんで預かったんですが……」
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