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 しかし、加藤の常識はこのような電話番号の存在を認めていないし、そのような電話番号から、今この特殊な時に電話がかかるということが美咲の死と無関係とは思えない。  まさか天国からの電話ではあるまいが。……出るべきか。  逡巡し、少年のような勇気を振り絞って、加藤は電話に出た。 「……はい、加藤です」  電話の相手は釈迦でも閻魔でもなく、加藤もよく知る世界的IT企業の日本法人からだった。  東京本社の専務取締役の村田と名乗った。  なるほど今の時代のIT企業ならば、この妙な電話番号もあり得そうな気がした。  しかし、インターネット屋が何の用だ。  訝しがる加藤に、村田という男が用件を告げる。 (美咲ちゃんと、もう一度話したいと思いませんか?)  なんだ、たちの悪い悪戯か。美咲はたった今死んだのだ……この目の前で。 「何の嫌がらせだ。ただじゃ済まんさんぞ」 (いえ、嫌がらせでも冗談でもありません) 「美咲は死んだ。いましがた……な」 (はい、ですから申し上げています。もう一度、美咲ちゃんと話したくはありませんか) 「あんたが生き返らせてくれるっていうのか」 (厳密に言うと、違います。もう一度話ができる可能性を残すという意味です) 「あんたは何を言ってるんだ?」 (今は詳しく説明してる時間がありません。急ぐんです。どうしますか)  やはり悪戯の類いだ、とは思ったが、断るには気分が悪い問いだ。 「できることがあるなら何でもやってくれ。で、何をしてくれるんだ?」 (詳しいことは落ち着いたころに、こちらからご連絡します。加藤さんは、うちの医療チームが持ってきた書類に署名をお願いします。時間がありません。早速ですが、今、まだ手術室ですか?) 「ああ、そうだ」 (では、そこにいる医師に替わってください)  加藤は言われるまま、美咲を看取った医師に携帯電話を差し出す。 「替われと言われました」  医師も怪訝な顔で電話を受け取る。 「替わりました。はい……ええ、そうです。……ありません、はい。……え? ええ、それは……はい、わかりました」  医師の顔が真剣になった。  医師は電話を切って加藤に返すと、加藤が何か言うよりも早く、もう一人の医師に「心マ再開」と告げた。
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